特定社労士とは、社労士の業務にプラスして、個別労働紛争の当事者の労働者の代理人として、あらゆることができる権限を持つ資格です。

しかし、社労士の免許を取得してからでないと特定社労士にはなれないものの、特定社労士も社労士には変わりありません。

まだ世間一般には、特定社労士という言葉に馴染みはないので、

 

「社労士とどう違うのだろう?」「どんな資格なんだろう?」「試験の難易度は?」

 

と様々な疑問を持っている人も多いでしょう。

そんな方のためにこの記事では、特定社労士について解説します。

 

特定社会保険労務士になるには?

特定社労士の受験資格には『社労士の免許』が必要

特定社労士は、社労士の免許を持っていないと受験資格がありません。

社労士免許の取得者とは、社労士試験に合格して『全国社労士連合会』に登録し、全国社労士連合会から、登録番号の入った顔写真付の『社会保険労務士証』を交付された人です。

この社労士証を交付されてはじめて特定社労士の受験資格が発生します。

この社労士証を交付されるための手続き(社労士の登録申請)については『全国社労士連合会』のHPをご参照ください。

 

特別講習の受講と試験に合格する必要がある

こうして発行された全国社会保険労務士連合会発行の登録番号の記載された社労士証を持っている人だけが、全国社労士連合会主催の特定社労士の特別講習(85,000円)を受講できます。

そして、特別講習の最終日に特定社労士試験(紛争解決手続代理業務試験15,000円)を受験して合格すれば、全国社会保険連合会が特定社労士証を発行してらえますので、その日から特定社労士と名乗ることができます。

 

特定社労士の特別研修と試験の内容は?

特別研修は、の順番で行われます。

・中央発信講義

中央発信講義は、個別労働紛争の法律と手続きに関する講習を学習します。

 

・グループ研修

グループ(10名ほど)で行う研修です。

課題として出題された労働争議について、グループ全員で、討論・議論をつくして、課題の労働争議についての、あっせん申請書と答弁書を作成します。

 

・ゼミナール

ゼミナールとは、グループ研修で、各グループから提出された、あっせん申請書や答弁書について、現役弁護士が一つ一つ解説していきます。

主に、実際の実務にケースを当てはめながら、労働争議についての考え方や申請書や答弁書の書き方について解説していきます。

 

・特定社労士試験(紛争解決手続代理業務試験)

ゼミナールの最終日に行われることが多く、全て記述の試験問題で、所要時間は2時間です。

試験問題については、「紛争解決手続代理業務試験」の過去問が書店に並んでいますので、参考にしましょう。

その内容は、特別研修で学習した内容全てにおける、修了試験のような感じです。

 

特定社労士試験の難易度・合格率はどのくらい?

全国社労士連合会の社労士試験委員会が、特定社労士試験(紛争解決手続代理業務試験)を作成しています。

筆者が問い合わせた結果、2016年の合格率は63.5%だったそうです。最近60%前後を推移しているのだとか。

筆者が受験したのは10年ほど前でしたが、当時の合格率は、80%弱くらいだったので驚きました。当時は、開業社労士のベテラン社労士さんが受験していましたので、労働争議の相談をたくさん受けて、見てきた社労士が多かったから、講義やゼミナール理解も身近な問題だったのかもしれません。

個人的感想ですが、そういった受験者の層の変化が合格者数に影響しているのではないかと思いました。

それに、筆者の経験ですが、講義や研修、ゼミナールに付いていくだけで必死で、寝る暇もないほど過酷で難易度の高い内容だったように思います。

今の社労士の受験者さんは、塾に行く時間をどのように捻出しているのか不思議です。

それはともかく、社労士試験の2016年の合格率は、4.4%と非常に難関で狭き門となりました。筆者が合格した年は7%前後だったのです。

その当時の傾向では、かなり難しかった時代のはずだったので、最近はさらに難しくなったのかと思い、若い世代の社労士さんに聞いて見ました。

すると、就職のためとかで、大学生の記念受験が増加したり、勉強が続かずに、試験を欠席したりする人が増加したので、合格率が計算上下がったにすぎないとのこと。

それに対し、特定社労士の合格率が65%と高いので、簡単な試験のように思えるかもしれません。

しかし、特定社労士は、社労士試験の狭き門をくぐり抜けた人たちが受験する資格試験です。

だから、決して難易度が低い試験ではないのです。

何より、受講者の多くは開業社労士で、生活がかかっている人も多いので、自然と合格率も高くなるのだと思います。

開業社労士には、このようにメリットの高い特定社労士の資格も、勤務社労士にはほぼ必要ない資格です。しかも10万円もの費用がかかります。

これは筆者の個人的見解ですが、特定社労士になるかどうかは、まず社労士試験に合格する事に専念した後、ゆっくりと自分がどういう社労士になるかを考えてからにした方が賢明だと思います。

 

特定社労士になるタイムスケジュール

社労士試験に合格して、社労士免許を取得し、特定社労士の特別講習の申し込みに間に合えば、開業していなくても、社労士として働いていないペーパー社労士でも、受講資格を得られるのです。

しかし、一般的には、開業社労士が受講することが多いです。

試験勉強の参考までに、社労士試験と特定社労士特別講習と試験のスケジュールを社労士に合格してすぐ受験したい人のためにご紹介しましょう。

試験や研修や講習は、全て年1回で、各々申込期間に間に合わないといけません。

実務経験がなく、労働社会保険諸法令関係事務指定講習を受講する人は、修了証がないと、社労士免許を取得できないので、その年の特定社労士の特別講習の申し込みに間に合いません。

ですから、実務経験の無い方は、少しタイムラグがあることを認識してくださいね。

 

・社労士試験 8月下旬

・社労士試験の合格発表 11月下旬

・労働社会保険諸法令関係事務指定講習5月~8月(最終日に修了証発行)

(→事務指定講習を受けた人は、社労士免許がないので、その年の特定社労士試験に間に合わない)

・特定社労士特別講習9月下旬~11月下旬(申し込み6月中旬~7月上旬)

・特定社労士試験(紛争解決手続代理業務試験)11月下旬(特別講習終了日が多い)

・特定社労士試験合格発表 翌年3月中旬

 

社労士と特定社労士の違いと特定社労士だけができること

社労士と特定社労士の違いは、労働争議の「紛争解決手続」の代理人になれるかどうかだけです。

社労士は、労働争議の相談や対策のアドバイスはできますが、代理人はできません。

その社労士のできない代理人の分野を特定社労士は行うことができるのです。

では、実際に特定社労士だけができることを解説するに当たって、特定社労士が活躍できる法律から解説しましょう。

 

特定社労士が活躍できる分野

労働基準法に「個別労働関係紛争の解決促進に関する法律」という法律があります。

この分野で特定社労士が、労働者の代理人として活躍できることを紹介しましょう。

1) 総合労働相談コーナーなどによる相談や情報提供

2) 都道府県労働局長による助言・斡旋

3) 紛争調整委員会による斡旋

 

これらの相談の申し込みは、各都道府県の労働基準監督署内にあります。

詳しくは厚生労働省の下記のHPをご参照ください。

「個別労働紛争解決制度(労働相談、助言・指導、あっせん)」|厚生労働省

他にもADR(有料の民間の調停機関)があります。

労働基準法は、どちらかというと会社側よりも労働者を守るための法律です。

ですから、個別労働紛争についても、労働者が孤独にならないようにと、無料で、できるだけ短期間で解決できるように、そして双方の意見を聞き、労働者が元の職場へと帰れるようにする組織です。

このように、労働者の真の利益を考えた組織ではありますが、お役所の仕事ですので、さまざまな難しい手続きが必要です。

これら全ての代理手続きを、「個別労働関係紛争の解決促進に関する法律」に関するあらゆる手続きを得意とした特定社労士がやってくれます。

労働争議に追い込まれた労働者には、心強い存在です。

 

社労士法人の求人に応募する際も特定社労士の資格が有利に働く

社労士法人の求人の場合、ただの社労士よりも、特定社労士の方が採用されやすいのが現状です。

理由は、特定社労士のイメージにあります。

会社には、労働問題や労働争議の問題はいつ起るかわからない重要な問題です。

だから、クライアントとの契約の際には、クライアントの方も、名刺に「社労士○○」とあるよりも「特定社労士△△」とある2名の社労士のどちらと契約するかといえば、「特定社労士△△」の方と契約するでしょう。

つまり、クライアントの信頼を特定社労士の方が得やすいわけです。

特定社労士というだけで、労働問題のスペシャリストとして、クライアントに大きな安心感を与えることができるといっても過言ではありません。

これからの時代、開業社労士として生き残っていくには、特定社労士であることが必須となるでしょう。