「社労士の平均年収はいったいどのくらい?」という質問は非常によく聞きます。

この社労士の平均年収の場合、「開業したら社労士はどのくらい稼げるのか?」を意味することが多いのですが、社労士には、開業社労士(法人社労士を含む個人事業主)だけでなく、勤務社労士、その他会員(社労士の資格を活かした仕事に就いていない人)がいます。

社労士は、開業社労士だけではないことを念頭に置いておいてください。

そして、もちろん、「社労士の平均年収」のデータも開業社労士だけではないのです。

そこでこの記事では、この統計データをもとに社労士の年収を検証していきましょう。

 

社労士の平均年収データは、勤務社労士のサラリーマン年収が含まれている

社労士の平均年収は士業間で6位?

年収ラボによると、社労士の平成27年(最新データ)の平均年収は「6位」です。

参照:https://nensyu-labo.com/2nd_sikaku_nensyu.htm

1位:医師    1,098万円

2位:弁護士   1,094万円

3位:公認会計士  717万円

4位:税理士    717万円

5位:不動産鑑定士 711万円

6位:社労士    670万円

 

これだけ見ると、「社労士は開業しても十分食べていける!」という嬉しいデータに見えますが、このデータに惑わされてはいけません。

 

一般サラリーマンと変わりない企業内の勤務社労士もいる

勤務社労士よりは、個人事業主の開業社労士の方が人数が多いのですが、企業の勤務社労士の給料は、社労士の報酬とはいえません。

この統計の中で、勤務社労士として登録していても、一般サラリーマンとしての企業の給料で働いている人が絶対的な数を占めているのは社労士だけです。

企業で働いている社労士を勤務社労士というのですが、残念ながら彼らの場合、社内で社労士免許の有無は評価の対象ではありません。

必要なのは、実務の能力です。そして、勤務社労士の多くは、実務の能力アップのために、常に最新の情報を入手し、自分の業務に役立つ人脈を作るために、勤務社労士登録をしているのです。

 

① サラリーマンの勤務社労士の社労士業務

・3号業務の人事労務の労務コンサルタント

・雇用保険・社会保険などの加入脱退届などの1号業務

・賃金計算などの2号業務

 

を主な仕事とする人事総務の仕事が主な業務です。

 

企業内において、勤務社労士の登録をして日頃からスキルアップに励んでいる有能社員の評価は高く、出世も早いでしょう。必然的にサラリーマンとしての年収も高くなりがちなのです。

企業の社員で人事部門にて3号業務に着手している勤務社労士の年齢層は、比較的高い管理職です。

3号業務に着手している年齢の高い勤務社労士の年収は、企業の規模にもよりますが年収800万円を超えるケースもあります。

 

② 開業社労士の年収が平均値を下げている?

この年収ラボのデータには、勤務社労士の年収に、さらに開業社労士の年収がプラスされています。

開業社労士には、大きな利益を上げている法人社労士(法人社労士事務所の経営者とそこで働く社労士)と、個人事業主の社労士、さらに年収300万円未満の貧乏開業社労士がいます。

開業社労士だけ見ると、300万円未満の貧乏社労士の方が圧倒的に多いのです。

彼らが平均年収を下げていると言っても良いでしょう。

 

おわかりですか?

 

大企業のサラリーマンの年収は、勤務社労士として登録していたとしても、企業の人事評価の年収に過ぎず、社労士としての報酬とはいえません。

それでも、勤務社労士は社労士ですから平均年収に含まれています。

だから、「6位 平均年収670万円」という数字に浮かれるわけにはいかないのです。

 

③ サラリーマン勤務社労士以外の勤務社労士の種類

勤務社労士には、企業のサラリーマン勤務社労士だけではないので、他にもご紹介しておきます。

 

・全国健康保険協会や労働基準監督署やハローワークなどの公務員

・企業や財団法人の組合健保

・他士業の事務所内

・法人出ない個人事業主の社労士事務所の社員

 

社労士事務所の社員として修行中の開業社労士の卵も勤務社労士です。

しかし、企業内のサラリーマン勤務社労士以外の勤務社労士の年収は300~450万円程度で比較的安いともいえます。

彼らの年収も社労士の平均年収を下げているといえるでしょう。

ただし、例外的に税理士事務所の年末年始は殺人的に忙しいので、社労士だけでなく、税理士の仕事も手伝って、残業代が年収に加算されてかなり高めが推移されているようです。

 

男性社労士と女性社労士の平均年収の違いからわかること

年収ラボのデータ(平成27年)によると、

 

男性の平均年収は693万円

女性の平均年収は631万円

 

で、男女比の平均年収の差は数十万くらいです。

 

勤務社労士は、男女の比率はそんなに差がありませんが、開業社労士に関しては、圧倒的に男性が多いです。

この勤務社労士の比率が、男女の年収比率の差を小さくしているのでしょう。

それは、開業社労士の年収の大きな格差があって、全体の平均年収が勤務社労士の年収に近づけているということがうかがえます。

社労士だけが、他の士業にない勤務社労士が多いという特別な収入形態があるのです。

ですから、このデータで、開業社労士の年収の参考にはならないということを認識しておきましょう。

 

実際の開業社労士の年収は?

最近では、資格を取得して、即開業する社労士が増加傾向です。

30代の若い世代の開業社労士の年収

まだ人生経験も人脈も浅い若い世代の開業社労士が、クライアントの開拓から始めるのです。なので、1年目は悲しいほどの年収で、とても食べていけません。

平均して、3年目くらいでやっと経営が軌道に乗るといわれています。

 

それでも、若い30代の社労士の場合、1号業務・2号業務の単独受注が多いので、比較的年収の少ない社労士が多いのです。

経営が軌道に乗った30代の若い社労士事務所の個人事業主は、年収も400万~500万円そこそこという話をよく聞きます。

これは、1号業務・2号業務の単独契約が多い場合です。

小さな収入を数で稼いでいる感じです。

そしてたまに、就業規則の作成や改訂、補助金申請などの少し大きな収入の契約を取ってきて20万~30万円前後です。

 

定年してから社労士資格を取得した開業社労士の年収

定年して社労士になって自宅で開業するご年配の社労士も意外にも多いです。

地方に行くほど多いのですが、筆者が知る限り、「肩書きが急になくなると寂しいから」とみなさん仰っています。

肩書きが欲しいから、という理由で、還暦過ぎて社労士試験に合格されたご年配の新米社労士の方々は、多くの場合、大企業の専務だったり、調停員ができるような名士だったり、現役時代にすごい役職の方々です。

定年してから社労士になった方々は、現役だったときの人脈を武器に社労士事務所を経営します。

事務所開業時からクライアントがある程度いるのです。

筆者が参加していた勉強会の幹事をやっていらした社労士の方は、年金を70歳までもらわずに開業社労士の収入だけで、しっかりと黒字経営していらっしゃったのだそうです。

70歳で年金をもらい始めたら引退して奥様と豪華客船に乗って世界一周旅行をなさるのだとか。

70歳で繰り下げ受給を開始すると、国民年金が188%、68歳の奥様は143%もらえるそうです。

70歳までとはいわずとも、年金をもらわずに経営できる年収が社労士だけであるというすごい人脈をお持ちのご長老さまです。

年収は後期高齢者保険が3割だと聞いたので、専業主婦の奥様と2人世帯なので、520万円以上の社労士の所得があるということです。

しかし、これは経費を差し引いた金額ですから、総所得は650万円以上あることになります。

還暦過ぎて、奥様に生活水準を落とさせるのは可哀想なので、奥様に若い頃の生活水準を保たせてあげるためには、現役時代と同じくらい稼ぐ必要があるとすると、1,000万円以上かもしれません。

 

大きな社労士事務所や法人社労士事務所の年収

1号業務と2号業務に加えて、3号業務に進出して顧問契約ができるとやっと800~1000万円くらいでしょう。

法人社労士事務所は、人海戦術を使って、1号業務と2行業務の賃金計算で3,000万円以上稼いでいるところもあります。

しかし、人件費が莫大になるので、純利益は1,000万円そこそこです。

こんな法人社労士も多いです。

その一方で、3号業務に続々と進出している開業社労士もいます。

弁護士や司法書士、税理士は1,000万円を超える事務所が多いので、大手の開業社労士や法人社労士でも平均収入がまだまだ他士業に比べて少ないです。

 

年収1000万円以上稼ぐ社労士になるには?

1,000万円以上稼ぐ社労士をご紹介しましょう。

彼らには、独自の経営手腕があります。

 

法人社労士事務所の年収はすごい

3号業務を中心に顧問契約を多数結び、法人社労士事務所にして、法人社労士(法人社労士事務所に勤務している社労士は勤務社労士ではなく「個人事業主」扱いで「法人社労士」という)を社員として、たくさん雇っている社労士事務所の社長の年収は1,000万円を軽く超えているでしょう。

社員である法人社労士も650万円以上の年収があるのが一般的です。

あとは社労士の実力次第です。こんな法人社労士を何名も雇っているのですから、人件費だけでも5人雇っても彼らの人件費で5,000万円弱は必要でしょう。

このような法人社労士事務所の社長は、多くの場合、講演会を開き、著書も出版し、高額な(参加費2万円以上)新米社労士の講演会や勉強会を開催しています。

中小企業ではなく、大企業を相手にし、大企業の3号業務に食い込んでいます。

また、他の士業と合同事務所を開くことでクライアントを分け合うことで多くの利益を得ている事務所もあります。

社労士独り(アルバイトはいる)の個人事務所で1,000万円以上を稼いでいる社労士に、筆者はまだお目にかかったことがありません。

 

タレント社労士の年収はすごい

また、テレビで解説者としてゲストで呼ばれている社労士さんは1,000万円を軽く超えているでしょう。テレビの出演料だけでもすごい報酬です。

多分どこかの大きな事務所の所長さんで、著書も多いのでしょう。

ある程度の知名度がないとテレビのゲストに呼ばれないからです。

もしかしたら、著書や新人開業社労士向けの講演会などでたくさん稼いでいる個人事業主の社労士さんかもしれません。

このような社労士は、プロダクションからスカウトされやすいと聞きます。

 

社労士が稼ぎ続けるには時代の変化に柔軟に対応できること

これからは、新しい時代に柔軟に対応できるアイデア溢れた社労士が生き残る時代となります。

たとえば、1号・2号業務の賃金計算は、いずれAIに取って代わられる可能性があると懸念しされており、アウトソーシングに力を入れている社労士事務所は方向転換を考える時期に差し掛かっています。

AIの時代がやってきたら、人材教育は今までとは全く変わってきます。

そんな時代が来ればAIに仕事を奪われて廃業する社労士も出てくるでしょう。

しかし、独自の方法でAIに勝る社員教育や、AIを使いこなす社員教育、ビジネスマナーを提案できる社労士に進化すれば絶大な信頼と確固たる地位を確立することができます。

 

社労士は「人材」の専門家です。

AI時代の人材教育は、今よりも難しくなり、アイデアや想像力や機転など、AIにできない人間独自の個性を引き出す訓練も必要です。

今の時代の若者には、この個性・独創性をこれから引き出す社員教育は困難を極めるかもしれません。

これは、今の若者に個性がないのではなく、他人と違うことや他人と違う意見を実行に移す勇気がないだけで、ひとりひとりが個性をたくさん持ち合わせているはずです。

そんな若者の、うちに潜んでいる個性や独創性を引き出す社内教育も必要となるでしょう。

まさに社労士の人材教育の力の見せ所です。

 

このように、時代に合った独自のアイデアや個性的な方法を考えられる社労士になれば、企業の経営陣の心をガッツリ掴み、3号業務にどしどし進出し、1,000万円を軽く超える利益に反映させることができるようになります。

医師や弁護士に並び「社労士の平均年収が1,000万超え!」なんて奇跡の時代が、すぐそこまでやってきているのかもしれません。